子宮内膜症

症状

代表的なものは痛みと不妊症です。痛みの中でも月経痛は子宮内膜症の患者さまの約90%にみられます。この他、月経時以外にも腰痛や下腹痛、排便痛、性交痛などがみられます。こうした症状は20~30歳代の女性に多く、加齢による女性ホルモン分泌の減少を境におさまります。また、妊娠を希望する女性では不妊症が問題となります。妊娠の希望のある内膜症患者さまの約30%に不妊症があると考えられています。

診断方法

内診、超音波検査および腫瘍マーカー(CA125)測定が基本で、MRI検査が必要な場合もあります。チョコレート嚢胞は比較的診断は容易です。しかしそれ以外に発生した子宮内膜症は画像検査では診断しにくいため、確定診断には腹腔鏡検査が必要な場合もあります。受診した施設により診断が異なることもたびたび経験されます。

深部子宮内膜症:子宮と直腸の間にあるダグラス窩と呼ばれる箇所とその周囲に高頻度で発生します。ダグラス窩は多くの重要臓器が隣接している箇所であるため、内診や画像検査では発見しにくいです。薬物療法も効果が乏しく、重要臓器の癒着が高度なことが多いため手術の難易度も高いです。

治療法

大きく分けて薬による治療と手術による治療があります。症状の種類や重症度、年齢、妊娠の希望などを総合的に判断して治療法を選択していきます。

痛みに対してはまず、鎮痛剤を使用します。効果が得られない時はホルモン量の少ない低用量ピルを用います。GnRHの拮抗剤(アゴニスト)や黄体ホルモン剤(ジェノゲストなど)が用いられることもあり、女性ホルモンの分泌を抑えたり直接病巣に作用させたりして症状を緩和させます。しかしながら子宮内膜症を根治させる薬はありません。

GnRHの拮抗剤(アゴニスト)による治療では女性ホルモンの分泌が少なくなるので更年期様の症状がでたり、骨量が減少するおそれがあるため6ヵ月以上の治療はできず、治療終了後に再発するケースが多く、効果は限定的です。ジェノゲストは長期投与が可能ですが、やはりエストロゲン低下作用を有するので、長期間服用すると骨塩量が減少する可能性もあり、特に若年者が服用する場合には注意が必要です。卵巣の内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)など病巣部がはっきりしている場合は、手術も考慮します。妊娠を望んでいる場合は、病巣部のみを切除して子宮や卵巣の正常部分を残す手術を選択しますが、卵巣機能は低下することが多いです。妊娠を望まない場合は、病巣のみの摘出に加えて、子宮・卵巣および卵管などを摘出することもあります。

長期の経過観察の必要性

子宮内膜症は、どの治療法を選択しても将来的に再発する頻度が高いことや、チョコレート嚢胞は長い年月を経ると、まれではありますが癌化する可能性があることから、長期にわたる経過観察が必要です。閉経しても安全とは言えません。チョコレート嚢胞全体から卵巣がんが発生する頻度は0.7%程度と推定されています。またチョコレート嚢胞で手術が実施された症例の卵巣がん合併率を下記に示します。40歳以上、長径10㎝以上では注意が必要です。ただ手術の明確な基準はなく、施設毎に手術適応基準が異なっており、患者さまが戸惑うことも多いです。一因には学会の見解が異なることが挙げられます。

  1. ①:日本婦人科腫瘍学会のホームページ内では「卵巣がんとの合併は40歳代以後で高くなり、小さな腫瘤からも卵巣がんが発生することから、40歳以上の症例では原則として卵巣摘出が薦められます。……腫瘍径が5cmを超える症例や血中CA125濃度高値を示す場合には嚢胞摘出術(腫瘤のみを摘出して正常卵巣部分を残す手術)を行い、術後も厳重な経過観察が必要です。」と記載されています。
  2. ②:産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編CQ221では「特に40歳以上で長径10㎝以上あるいは急速な増大を認める症例では、画像診断で評価したうえで、悪性化の組織学的検索を目的とした卵巣摘出も考慮する」と記載されています。
    手術の適応は腫瘍サイズのみで決定はできませんが、サイズについては客観的な指標ですので、日本の学会内での統一は必要と考えます。
チョコレート嚢胞の年齢別卵巣癌合併数(ガイドライン婦人科外来編2017年)
年齢チョコレート嚢胞卵巣癌合併数合併率(%)
20歳未満4600
20歳代1908110.6
30歳代3450451.3
40歳代2362974.1
50歳代4159121.9
60歳代552749.1
70歳代271140.7
8,2632823.41
チョコレート嚢胞径と卵巣がん発生数(ガイドライン婦人科外来編2017年)
大きさ(cm)チョコレート嚢胞卵巣がん合併数合併率(%)
15以上1572312.8
145047.4
1320673.3
1210754.5
115059.1
10256134.8
952181.5
8884101.1
71504100.7
6145490.6
5181860.3
488460.7
3以下36400
公益社団法人 日本産科婦人科学会HP「産科・婦人科の病気」より一部転載