乳がん

乳房は乳汁をつくる乳腺と、乳汁を運ぶ乳管、それらを支える脂肪組織などから構成されています。乳腺には腺葉と呼ばれる15~20個の組織の集まりがあり、腺葉は乳管と多数の小葉から構成されています。

乳がんの多くは乳管から発生し、乳管がんと呼ばれます。小葉から発生する乳がんは、小葉がんと呼ばれます。この他にも特殊な型の乳がんがありますが、あまり多くはありません。乳がんは、しこりとして見つかる前に、乳房の周りのリンパ節や、遠隔転移(骨、肺、胸膜、肝臓、脳など)で見つかることもあります。乳がんの種類や性質によって、広がりやすさ、転移しやすさは、大きく異なります。

わが国の2013年の乳がん死亡数は約13,000人で、女性ではがん死亡全体の約9%を占め、増加傾向にあります。30歳代から増加をはじめ、特に40歳代から乳がんにかかるリスクは高くなります。

症状

自分で気付く症状としては、以下のようなものがあります。

1)乳房のしこり
乳がんが進行すると腫瘍が大きくなり、注意深く触るとしこりがわかるようになります。ただし、しこりがあるからといって、すべてが乳がんというわけではありません。たとえば、乳腺症、線維腺腫、葉状腫瘍などでも、しこりの症状があらわれます。葉状腫瘍はまれな腫瘍ですが、線維腺腫に似た良性のものから、再発や転移を起こしやすい悪性のものまでさまざまです。
2)乳房のエクボなど皮ふの変化
乳がんが乳房の皮ふの近くに達すると、エクボのようなひきつれができたり、乳頭や乳輪部分に湿疹(しっしん)やただれができたり、時にはオレンジの皮のように皮ふがむくんだように赤くなったりします。乳頭の先から血の混じった分泌液が出ることもあります。乳房のしこりがはっきりせず、乳房の皮ふが赤く、痛みや熱をもつ乳がんを「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんのこのような特徴は、がん細胞が皮ふに近いリンパ管の中で増殖してリンパ管に炎症を引き起こしているためです。
痛み、むくみや腫れといった症状は乳がん以外の病気、たとえば良性腫瘍の1つである線維腺腫(せんいせんしゅ)、乳腺症、細菌感染が原因の乳腺炎や蜂窩織炎(ほうかしきえん)などでも起こることがあるので、くわしい検査をして乳がんであるかどうか調べる必要があります。
3)乳房周辺のリンパ節の腫れ
乳がんは乳房の近くにあるリンパ節である、わきの下のリンパ節(腋窩[えきか]リンパ節)や胸の前方中央を縦に構成する胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨上のリンパ節に転移しやすく、これらのリンパ節を乳がんの「領域リンパ節」と呼びます。腋窩リンパ節が大きくなると、わきの下などにしこりができたり、リンパ液の流れがせき止められてしまうため、腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕がしびれたりすることがあります。
4)遠隔転移の症状
転移した臓器によって症状はさまざまであり、症状がまったくないこともあります。

どんな人が多いか?

乳がんの発生には、女性ホルモン(エストロゲン)が関与しています。体内のエストロゲンが多いこと、また、エストロゲンを含む経口避妊薬の服用、更年期症状に実施するホルモン補充療法は乳がんのリスクを高めます。初経年齢が低い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が遅い、授乳経験がないことがリスクを高めます。生活習慣では、飲酒、閉経後の肥満、運動不足が乳がんのリスクを高めます。その他には、血縁者に乳がんの人がいる(特に親や子供)、良性乳腺疾患にかかったことがある、マンモグラフィーで高濃度乳房である、高身長、放射線照射が、乳がんのリスクを高めます。最近では、卵巣がんと同様に、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子変異がある方で高率に発症するので、予防的乳房切除術をおすすめする場合もあります。

予防

これまでの研究では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。

検査方法

しこりなど自覚症状がある場合はすみやかに受診することをおすすめしますが、無症状の場合でも、マンモグラフィーや乳腺エコーを定期的に受けられることをおすすめします。

マンモグラフィー:
乳腺腫瘤、石灰化、乳腺のゆがみなどをとらえます。乳がんに見られる石灰化を描出するのは得意ですが、小さな腫瘤は見逃すことがあります。また検査時に疼痛や微量ではありますが被爆もあります。特に20~30歳代の女性では乳腺の密度が高く(高濃度乳腺)、マンモグラフィーでは正常乳腺自体が白くうつり、異常が隠れてしまうことが多いです。マンモグラフィーは40歳以上の女性では、乳がんによる死亡率が減少することが証明されていますが、40歳未満の女性では十分なデータがありません。
超音波検査:
ほとんどの病変は検出可能で、また乳腺密度の高い(高濃度乳腺)女性を含む全ての年齢層で検査可能です。検査時の疼痛や被爆もありません。この点はマンモグラフィーの欠点を補うものです。しかし細かい石灰化は見逃すことがあり、また見つける必要のない病変まで拾い上げてしまう傾向にあります。
マンモグラフィーと超音波検査の併用:
最近、40歳代の女性を対象に、マンモグラフィーに超音波検査を加えることで早期乳がんの発見率が約1.5倍になることが報告されました(J-START試験)。

治療

治療の主体は、手術、放射線療法、抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的治療などを組み合わせて実施します。当クリニックは治療施設でないため、詳細な治療の情報につきましては、「国立がん研究センター」の情報をご覧ください。